「歯の神経って抜いてもいいのかな?」
「神経を抜かないほうが良いって聞いたけど本当?」
このような疑問をお持ちではありませんか?当院でも虫歯治療を検討されている患者様から、よくこういったご質問をいただきます。虫歯の治療では歯の神経を抜くことがありますが、同時に神経はなるべく抜かないほうが良い、という話も聞いたことがある方が多いでしょう。
このような疑問を解決するために、当記事では以下の内容を解説いたします。
- ・歯の神経を抜くってどういうこと?
- ・歯の神経を抜く2つのメリット
- ・歯の神経を抜く5つのデメリット
- ・歯の神経を抜かない治療法について
当記事を読めば、虫歯治療で歯の神経を抜く理由を知り、さらに抜くときのメリット・デメリットまで理解できるでしょう。記事の後半では、通常神経を抜くような症例でも、神経を残すことのできる治療法「歯髄温存療法」についても解説します。
歯髄温存療法について詳しく知りたい方は、こちらのページでより詳細に取り上げています。ぜひ併せてご覧ください。>>歯髄温存療法について
歯の神経を抜くってどういうこと?治療の仕組みを解説
虫歯の治療などで「歯の神経を抜く」という言葉を耳にしたことのある方は多くても、歯の神経についてしっかりとご存知の方は少ないでしょう。一般的に歯の神経とは、「歯髄」のことを指しています。
歯髄は神経組織と血管で構成されており、以下のような役割を持っています。
- ・神経組織が噛む感覚や痛みを脳に伝える
- ・血管を通して歯に栄養や水分を供給する
歯髄に問題が起きた際には、歯から歯髄を抜く「抜髄」という治療を行う場合があります。
歯髄を抜くと歯が死んでしまう
歯髄に問題が起きると、抜髄を行い、歯から歯髄を抜くことがあります。
歯髄には血管が含まれており、血管が歯に栄養や水分を供給しているため、抜髄すると歯に栄養と水分は供給されません。当然ですが、栄養が得られなくなった歯は死んでしまいます。
抜髄した歯のことは「無髄歯」と呼びます。無髄歯は栄養を得られないため、枯れた木のように脆くなります。さらに痛覚が無いため、歯のトラブルにも気づきにくくなってしまうのです。
抜髄が必要な症状とは?一般的には以下のような場合は抜髄する
上述の通り、無髄歯は脆かったり歯のトラブルに気づきにくくなるため、抜髄はなるべく避けたいところですが、抜髄せざるを得ない場合もあります。
抜髄が必要な症状として、最も有名なものが歯髄炎です。歯髄に虫歯の菌が感染し、歯髄が炎症を起こして痛みを生じる、歯髄炎と呼ばれる状態になります。
歯髄炎による炎症は軽度なら正常な状態に回復できますが、進行具合によっては回復が難しい場合もあります。そうなると歯髄から菌を取り除くことは難しく、多くの場合で抜髄を行います。
もしも抜髄せずに歯髄を放置すると、歯髄の炎症が悪化して壊死し、細菌の温床となります。この状態をさらに放置すると、細菌があごの骨全体にまで感染拡大する場合もあるので、必ず治療を行うべきでしょう。
歯の神経は抜くべき?抜髄する2つのメリット
ここまで「歯の神経を抜く」とはどういうことか、どういった症例で歯の神経を抜くことがあるのか、解説しました。
抜髄を行った歯は無髄歯となって、脆くなったり感覚がなくなってしまうので、デメリットが多いように感じた方もいるかと思います。ここで一度、抜髄を行うメリットを整理してみましょう。
抜髄を行う主なメリットは、以下の2点です。
- ・抜髄のメリット①:感染した箇所を除去して感染拡大を防ぐ
- ・抜髄のメリット②:痛みがなくなる
上記の2点について、さらに詳しく解説します。
抜髄のメリット①:感染した箇所を除去して感染拡大を防ぐ
抜髄の最も大きなメリットは、細菌に感染した歯髄を除去することで、感染拡大を防ぐことができる点です。
歯髄炎になった場合でも、歯髄が生きている間は、歯髄の細胞が持つ免疫機能により、細菌の増殖はある程度抑えられます。しかし歯髄が壊死して免疫機能が失われると、歯の根管内で細菌が爆発的に増殖します。
根管内で増殖した菌を放置すると、歯を支えているあごの骨にまで感染が広がり、根尖性歯周炎という病気に発展する場合も。ここまで進行すると、骨が溶けてしまったり、最悪抜歯する必要が出てきます。
歯髄が壊死する前に抜髄してしまうことで、根管内で菌が増殖することを防ぐことができるでしょう。
抜髄のメリット②:痛みがなくなる
抜髄することで、歯の痛覚がなくなるため、痛みがなくなります。
軽度の歯髄炎の場合、冷たい飲み物などの刺激で痛みが発生しますが、一時的なものですぐに収まることも多いです。これが重度になってくると、暖かい飲み物でも痛み出し、常時痛みが続くようになります。
痛みの程度には個人差がありますが、よく「耐え難い痛み」だと表現されます。そんな痛みからすぐに解放されるという点が、抜髄の大きなメリットです。
歯の神経を抜かない方が良い理由!抜髄する5つのデメリット
ここまで抜髄のメリットを記載しましたが、歯が死んでしまう以上、抜髄はデメリットも多い治療法です。歯が死んでしまった後の経過には個人差がありますが、生きた歯には生じないさまざまな問題が起きてしまいます。
抜髄の主なデメリットは、以下の5点です。
- ・抜髄のデメリット①:歯が死んで脆くなる
- ・抜髄のデメリット②:歯が変色する場合がある
- ・抜髄のデメリット③:痛覚がなくなりトラブルに気づけなくなる
- ・抜髄のデメリット④:歯茎に痛みが出る場合がある
- ・抜髄のデメリット⑤:再治療が必要になることが多い
上記の5点について、さらに詳しく解説します。
抜髄のデメリット①:歯が死んで脆くなる
抜髄をして歯髄を失った無髄歯は、歯が死んでしまい脆くなります。
先述した通りですが、歯髄には血管が通っており、この血管から栄養や水分が歯に供給されています。抜髄した無髄歯は栄養の供給がなくなり、枯れ木のように脆くなってしまいます。
強い食いしばりや外部からの衝撃、硬いものを噛んだ際などに、健康な歯と比べて無髄歯は容易に歯が割れたり折れやすくなります。過去の論文では、根管治療を行なった歯の喪失リスクは、前歯で1.8倍、奥歯で7.4倍に上昇するという報告もあります。(2005.Caplan)
抜髄のデメリット②:歯が変色する場合がある
抜髄すると歯が茶色や黒色に変色してしまう場合があります。
原因としてはさまざまなことが考えられますが、抜髄で血管を失ったことで、歯の代謝能力が失われたことが挙げられます。代謝能力が失われると、歯の組織の変性物などが象牙細管と呼ばれる歯の内部を通る細い管に沈着し、時間と共に変色するのです。
このような原因で変色した歯は、外側からのブラッシングなどでは白くならず、専用の治療を受けなければいけません。
抜髄のデメリット③:痛覚がなくなりトラブルに気づけなくなる
抜髄のメリットとして痛みがなくなることをあげましたが、痛みが無いことはデメリットにもなります。
痛みがないということは、歯に異変が起きていても自分で気づけなくなる、ということです。そのため抜髄をした場合は、定期的に歯科で検診を受けたり、メンテナンスを受ける必要が出てきます。
抜髄のデメリット④:歯茎に痛みが出る場合がある
抜髄してからしばらく時間が経ったあと、歯茎に腫れや痛みが出る場合があります。
抜髄したことで空いた歯の中の空間に菌が感染し、その菌が歯茎に到達することで、歯茎の腫れや痛みを引き起こします。歯茎にまで菌が到達してしまった場合、再度治療が必要になりますが、抜髄よりも大掛かりな治療が必要になる場合も多いです。
抜髄のデメリット⑤:再治療が必要になることが多い
せっかく抜髄をしても、治療方法やその時の状況にもよりますが再度根管治療が必要になる可能性は残ります。
抜髄は歯の根の内側の非常に細やかな空間が治療の対象となります。実際、歯髄の露出している部分は0.5mmにも満たないことが多く、肉眼での視認ができないほどです。
特に保険診療の限られた時間と設備の中での治療では、根管内部を傷つけたり汚れが残って、再治療が必要になることは多々あります。このような事態を引き起こさないためにも、一度目の治療で適切に抜髄処置を行うことで、再治療の可能性を低下させることにつながります。
【結論】歯の神経は抜かないのが理想!抜髄は最終手段と捉えましょう
ここまで、抜髄のメリットとデメリットについて紹介いたしました。抜髄にはメリットもありますが、デメリットも非常に多いことがご理解頂けたかと思います。
「歯の神経は抜くべきか抜かないべきか」については、極力抜かないほうが良い、というのが結論になるでしょう。
もちろんどうしても抜髄せざるを得ない状況も多いですが、当院ではなるべく「抜髄しない」ための選択肢を探ります。抜髄は最終手段と捉え、なるべく歯髄を残せるような治療をご提案させていただきます。
歯の神経を抜かない方法は?歯髄温存療法なら抜髄を避けられる場合がある
近年注目されている治療法に、「歯髄温存療法」というものがあります。歯髄温存療法は、なるべく抜髄を行わず、歯髄を残して歯を生かすことを目的とした治療です。
歯髄温存療法は精密かつ安全な治療を求められます。マイクロスコープやラバーダムが必須であり、歯髄温存療法を行っている医院の数もまだまだ少ないのが現状です。
また、歯髄温存療法はすべてのケースに適応できるわけではありません。精密な診査・診断を行った上で、歯髄を残すことが最善といえる場合にのみ、適用される治療法です。
当院ではレントゲン撮影を行い、歯の根や歯髄の状態を精密に診査します。歯髄が生きているかどうかは、歯髄電気診によって確認します。そうした科学的根拠に基づいて、歯髄を残すべきか、歯髄を除去すべきか判断するのです。
歯髄温存療法について詳しく知りたい方は、こちらのページでより詳細に取り上げています。ぜひ併せてご覧ください。>>歯髄温存療法について
まとめ:歯の神経は抜かないのが理想!歯髄を残せるか判断は当院にお任せください
当記事では、歯の神経は抜くべきか抜かないべきか、について解説しました。
歯の神経=歯髄を抜く、つまり抜髄することは、メリットもありますがデメリットも多い治療法です。
- ・抜髄のメリット①:感染した箇所を除去して感染拡大を防ぐ
- ・抜髄のメリット②:痛みがなくなる
- ・抜髄のデメリット①:歯が死んで脆くなる
- ・抜髄のデメリット②:歯が変色する場合がある
- ・抜髄のデメリット③:痛覚がなくなりトラブルに気づけなくなる
- ・抜髄のデメリット④:歯茎に痛みが出る場合がある
- ・抜髄のデメリット⑤:再治療が必要になることが多い
ですので極力、抜髄はせずに歯の神経を残す方向で、治療を考えるべきだと思います。ただし抜髄せざるを得ない状況も多々あります。お悩みであれば、しっかりと歯科と相談の上、治療の方針を定めると良いでしょう。
また当院では、歯髄温存療法と呼ばれる、抜髄をせずに歯髄を残す治療を積極的に行っております。全ての症例に適応できるわけではありませんが、他の医院で抜髄を勧められた症例でも、歯髄温存療法で抜髄せずに済む場合もあります。歯髄温存療法について詳しく知りたい方は、こちらのページでより詳細に取り上げています。ぜひ併せてご覧ください。>>歯髄温存療法について
なるべく抜髄せずに治療を行いたい、という方はぜひお気軽にご相談ください。