歯の本数が少なくなった場合は、将来のことを考えた治療計画が必要となります。
60代の男性 噛めない
長年歯科への通院ができておらず、ものが噛(か)めなくなってきたとのことで来院されました。歯が当たっているところは少なく、摂食障害により栄養も十分に摂れておらず、機能回復が必要な状況でした。
診査・診断と治療計画の考え方
患者様はインプラント治療をご希望でしたが、上アゴと下アゴに歯の欠損をお持ちでした。そして費用的なことから上下すべての歯を固定式で作製することは難しいこともあり、どこにどのようにインプラントを配置するかを最初にご相談していきました。
まず上アゴと下アゴを比較したときに、上アゴの骨質は一般的に下アゴよりも柔らかく、また奥歯には副鼻腔(上顎洞)が近くにあることからもインプラント治療の難易度は上がり、治療期間、治療費など負担は増える傾向にあります。また、上下どちらかを固定式インプラント治療を行う場合、前述の理由に加えて下アゴは舌(した)があるため取り外し式の入れ歯は動きやすく、治療の難易度は高く、入れ歯の装着感・違和感・異物感なども大きくなるため、費用対効果の高い下アゴを優先でインプラント治療を考えることが多いです。
ご説明・ご相談の上で患者様は下アゴへのインプラント治療を考えることとなりましたが、インプラントの本数、手術の回数、治療期間、トータルの治療費、将来的な再治療介入の可能性などを考えて最終設計を検討していきました。
患者様は下アゴのほとんどの奥歯をすでに失っておられ、前歯も虫歯と歯周病により、3本(△印)を除いたすべての歯を保存することが難しい状態でした(×印)。また、保存できそうな3本の歯も虫歯と歯周病、根の問題があり、長期的な保存を目指すには不安な状況にありました。
まずポイントとなるのが、△印の歯を保存するかどうかについてです。
基本的に歯を保存することは最優先で考えることがほとんどなのですが、こういった残せる歯が少ないケースに限っては△印のような少数の歯を残そうとすると、インプラントの上部構造(かぶせもの)は残す歯の部分で分断された設計となるため、かぶせものを支えるために必要なインプラントの本数が増えてしまいます。
また、将来的に△印の歯にトラブルが生じて抜歯を余儀なくされた場合に、インプラントの追加が必要になるので、さらにインプラントの本数は増え、外科手術の回数だけでなく、治療費も大きく嵩(かさ)んでしまいます。
△印の歯を保存しながらインプラント治療する計画と、△印の歯を抜歯してインプラント治療する計画をメリット・デメリット、そして将来展望とともにご提案したところ、患者様はすべて抜歯することを選択されましたので、6本の最小の本数のインプラントにて最大の効果が得られるように設計を考え、治療を進めていくことになりました。
CTスキャン・診査・診断 | 1.1万円(税込) |
インプラント埋入
骨の形を整えて細菌の溜まり場をなくし、インプラントの本数が少なくなるようにインプラント体を配置しました。
一次手術料 | 11万円(税込) ※同時に複数本埋め込みする場合、2本目以降 5.5万円(税込)/本 |
インプラント体 | 15.4万円(税込)/本 |
骨が足りない部位に対しては、
写真のように骨造成オプションを併用し、インプラント周囲に骨の支えがある状態を作っていきます。
インプラント体は、インプラント周囲炎のリスクを少なくするために、プラーク(汚れ)のつきにくい表面性状を有するタイプのもの使用しております。
骨を造る骨誘導再生法 | 6.6〜19.8万円(税込) |
術後起こりうること:痛みや違和感、出血、腫れ、内出血などが出る可能性があります。骨が固まるまでの期間を考えて、治療期間は1−2ヶ月長くなります。
二次手術(頭出し)
二次手術料 | 5.5万円(税込)/本 |
インプラント二次手術時に、歯ぐきが少ない部位に対しては歯肉移植を併用し、長持ちのための環境づくりを進めていきました。
歯ぐきを作る遊離歯肉移植術 | 5.5万円(税込)/回 |
術後起こりうること:手術後、痛みや違和感、出血、腫れなどが出る可能性があります。喫煙者、糖尿病の患者様の場合、移植した組織が定着しにくいことがあります。
最終上部構造作製へ
すべての歯を抜歯し、インプラントのみで歯を支えれるようになった状態です。
インプラント周囲にはインプラント周囲炎のリスクを軽減させるためにも歯肉移植を併用したため、十分な歯ぐきが出来上がり、ゴシゴシ磨いても痛くない環境の構築ができました。
インプラントも天然の歯と同じく、磨けるかどうかが長期安定の非常に重要なポイントの一つとなります。
こちらが出来上がった最終の上部構造です。
治療終了時
最終上部構造 | 16.5〜24.2万円(税込)/本 |
かみ合わせや舌(した)のスペースなどをプロビジョナルレストレーション(治療用義歯)にて問題がないことを確認し、最終形態を決定しました。また、通常の歯ブラシと1本の歯間ブラシにてできるだけ簡単にお手入れできることを考えて設計をさせて頂きました。
最終上部構造(かぶせもの)はフルジルコニアクラウンのスクリュー固定式にて作製を行いました。
術後起こりうること:必ずしもご希望通りの見た目にならない事があります。強い衝撃を与えると、上部構造を固定するネジが緩んだりする事があります。お手入れが不十分な場合、インプラント周囲炎になる可能性が高まります。
手が不自由になったり、お手入れが難しくなった場合は、将来インプラントを使った取り外し式入れ歯に設計変更することも可能ですので、状況に応じてご相談させて頂きます。
ネジ穴の部分はこのようにすべて封鎖を行います。※写真は別の参考症例
インプラントを長く使用するためにはメインテナンスが必要不可欠となります。毎日のご自身でのセルフケアに加え、歯科医院で2〜3ヶ月に一度くらいのペースで定期的なメインテナンスを受けましょう。インプラント周辺だけでなく、お口全体のチェックを受けて良い状態を保ち、いつまでも快適に使用していただくことお身体全体の健康にもつながります。
監修者情報
歯科医師 小谷洋平
経歴
- 京都府生まれ 洛南高等学校卒業
- 2009年 岡山大学歯学部卒業 岡山大学病院にて研修
- 2010年 貴和会新大阪歯科診療所 入職 佐々木猛先生に師事
- 2017年 貴和会新大阪歯科診療所 副院長就任
- 2019年 貴和会銀座歯科診療所 勤務
- 2021年 おだに歯科クリニック 開院
- 高度連携歯科研究会京都 設立